踊れる歓びの爆発 ~第39回あきた全国舞踊祭を審査して~
山野 博大
 舞踊評論家
(千葉県)
肖像 第39回あきた舞踊祭は、新型コロナ・ウイルスが世界的に猛威をふるう環境下での開催となった。日本でもまだ先が見えない状況にあり、このような悪条件下では、参加者が少ないのではないかと危惧しつつ秋田新幹線こまち号で秋田入り。主催者に聞いたところ「例年以上の応募があり、審査にいつも以上の時間がかかるので、そのつもりで」とのこと。“あきコン”の人気の高さを再認識した。秋田県のコロナ感染者の少なさ、“Go toトラベル”でいつもより楽に秋田入りできたことなども、応募者の増加に関係していたかもしれない。

 コンクール各部門出場者のレベルは、例年に増して高いものだった。コロナ禍で踊る機会を奪われたダンサーたちが、久しぶりに舞台に立てる喜びを爆発させたのだ。コロナ感染予防のために、たびたびドアーを全開して換気をはかっていたにも関わらず、秋田市文化会館の空気は常に熱かった。

 舞台で踊り観客に感動を与えるために、ダンサーたちは長い時間をかけて練習を繰り返す。しかし練習の延長線上に「本番」はない。舞台で描かれる世界は、この世でただ一回限り出現する「現実」なのだ。練習の通りに踊ったのでは、人間の世界で起こる出来事を観客にリアルに示すことはできない。舞台に出て観客と向き合った時には、練習のすべてを忘れ、作品の世界に初心の身をさらす。スポーツでは練習の成果を「試合」で発揮すればよい。しかしダンサーは、日常の練習から身を断ち切って本番に臨む。その姿勢を保てた人だけが、リアルな現実を舞台上に出現させることができるのだ。

 今回のコンクール各部門の上位入賞者は、観客との新鮮な出会いを実感しながら舞台に上がっていたと思う。グランプリに輝いたシニア部門の「忘却…白くなったページ」の近藤みどり(窪内絹子門下)はその代表だった。これまでに何度も“あきコン”で踊ってグランプリに達したのだ。このコンクールでトップに立った人の多くが日本ばかりか、世界のひのき舞台へとはばたいて行く。彼女のこれからが楽しみだ。

 ジュニア1では、日本の現代舞踊界をけん引する次の世代のひとりである米沢麻佑子が振付指導した少女たち(新美佳恵スタジオ)が上位を占めた。米沢は、黒沢輝夫・下田栄子が手塩にかけた逸材だ。秋田県が生んだ日本現代舞踊の元祖である石井漠直系の米沢が“あきコン”に優秀な人材を多数送り込んでくれたことを喜ぶ。その上の年代が出場するジュニア2には、金井桃枝、菊地尚子、川村泉、二見一幸ら、今の時代を代表する舞踊家たちが育てた“将来の大物”が上位に並んだ。ジュニア1、2に出て上位を占めた人たちの、舞台での堂々たる振舞いを見ていると、彼らが「本番」の大事さをすでによく知っていることが感じられた。この若い世代は、日本の舞踊が長い時間をかけて育んできた大事なところを、すでに理解している。

 群舞のトップ“最優秀群舞賞”は「moments この時代の中で」だった。細川江利子に指導された埼玉大学ダンス部出身の6人が、今の世界に充満する不条理をていねいに描き出した。“優秀群舞賞”には片岡康子に指導の下に都立総合芸術高等学校の8人が次代のパワーを見せた。“Duoなまはげ賞”受賞の「廃墟の森」を踊った西山由理子、西山吐和子、“横山慶子奨励賞”受賞の「春を紡ぐ光」を踊った関根亜子、藤堂ひかるの愛らしい二つのカップルがその対極を占め、群舞部門の表現の幅の広さを示した。

 “あきコン”には、公演スタッフが選ぶ“あきたこまち賞”がある。この賞に選ばれた者には、エキシビション公演で踊る機会が与えられる。例年、スタッフ陣のユニークな選択を証明する大きな拍手が沸き、審査員を悔しがらせる他のコンクールにはない賞だ。今回は、ジュニア2で6位に入った「砂を泳ぐ」の青柳潤が選ばれた。二見一幸の門下。大らかな踊り方の男性だ。

 来年“あきコン”は、新装移転のために閉館となる秋田市文化会館で40周年の節目を迎える。これまでに多くの逸材を舞踊界に送り込んできた実績が改めて評価されるだろう。暮の秋田に日本中からたくさんの人たちを呼び込み、永きにわたり市の年末の経済に貢献してきたことに感謝する人も少なくないと思う。“雪の秋田の熱い冬・あきコン”のさらなる発展を祈る。

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Update:2021/01/02  

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