《あきた全国舞踊祭》 の健全な発展を見る
山野 博大
 舞踊評論家
(千葉県)
肖像

 第37回 《あきた全国舞踊祭》 のグランプリには、すゞきさよこ門下の田中朝子が踊った『卯の花腐し』が選ばれた。彼女は、10月に行われた現代舞踊協会主催の 《2018時代を創る現代舞踊公演》 で宮本舞作品 『Garden』 を、関口淳子ら現代舞踊のベテランたちと踊り、遜色のない舞台を見せていた。9月に行われた埼玉県舞踊協会主催の 《第45回ステージⅠ》 では自作のソロ 『肖彫』 で、日本の現代舞踊の特色を引き継ぐひとりとして注目された。さらに 《第38回モダンダンス5月の祭典》 で、現代舞踊協会新人賞受賞の 『MONAD』 を披露しており、すでに彼女が若手のトップグループのひとりであることは誰の目にも明らかだった。

 私は2014年4月の、お茶の水女子大学芸術・表現行動学科舞踊教育学コース 《第41回創作舞踊公演》 で田中朝子の踊りを初めて意識して見た。その時彼女は自作の 『Somewhere』 を踊った。安定した技術を足場として、ていねいに表現を重ねて行くダンスが心に残った。そして15年の 《第28回こうべ全国洋舞コンクール》 ではモダンダンス第1部で第1位に入っている。その後も現代舞踊の公演に数多く登場し、若手の注目株のひとりだった。

 彼女の踊った 『卯の花腐し』 は、日本の現代舞踊が戦前から培ってきた日本の豊かな自然の描写そのものと言える内容だった。時に重厚な精神世界をうかがわせる舞踊表現は、日本の現代舞踊が世界に誇るべきものと私は思う。このような作品が 《あきた全国舞踊祭》 に現れたことを喜ぶ。

 今回の 《あきた全国舞踊祭》 には、一方で別の流れもあった。群舞部門に新しい動きが現れたのだ。『ジャンケンポン』 は、日本体育大学の男子学生10人が黒いスーツ姿で踊った。彼らは、時に稚拙なところも見える力一杯のスポーティーな動きで直截的なパンチをさく裂させ、今の時代をダイレクトに伝えて群舞の第1位になった。

 グランプリの田中朝子の伝統的ソロ 『卯の花腐し』 の対局に、日体大男子の群舞 『ジャンケンポン』 の「今」 が来たことで、1982年から冬の秋田で行われてきた 《あきた全国舞踊祭》 が今なお健全に前へ進んでいることを証明した、と私は思う。


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Update:2019/1/26  

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