第35回あきた全国舞踊祭のモダンダンスコンクールは、これまでと変わらず出場者のレベルがひじょうに高かった。このコンクールは予選がなく、1回踊っただけで最終順位が決まる。それにもかかわらず、いわゆる予選レベルと言われる、実力が極端に低い出場者は、今回もほとんどいなかった。
シニア部門50人の出場者に対する各審査員の採点の振れぐあいに、上位と下位が紙一重の差だったことが、如実に表れていた。
9人の審査員が3位までの点をつけたものの中で、その順位がもっとも下の作品をあたってみた。
石原完二=22位『春雷』
金井桃枝=26位『俎板の鯉』
坂本秀子=12位『向こう側の私』
杉原ともじ=3位『沈黙する心』
高橋由紀子=11位『静かに壊れていく庭』
平多浩子=25位『泡沫~声なき声は泡となり』
二見一幸=24位『夜空に響く蛙声』
山川三太=28位『ひぐらし』
山野博大=31位『根』
意外に下の方まで、上位入賞の可能性があった。
第1位、グランプリに輝いた『忽逢桃花林』に、ベストの点をつけた審査員は0人、第2位『青は熱い色』は2人、第3位『沈黙する心』は2人だった。この結果も意外だった。トップの作品に9人の審査員は誰もトップの点を入れていない。それどころか2位と3位に2人づつだから、後の5人は別の作品をトップに推したことになる。
各審査員がトップに推した作品は、
石原完二=4位『雪の一片』、6位『滲む月』
金井桃枝=6位『滲む月』、7位『果て』
坂本秀子=12位『向こう側の私』
杉原ともじ=2位『青は熱い色』
高橋由紀子=3位『沈黙する心』
平多浩子=14位『ポワソン』
二見一幸=3位『沈黙する心』、4位『雪の一片』
山川三太=19位『虫の声』
山野博大=2位『青は熱い色』
だった。
このシニア部門の結果から、多くの作品にグランプリ受賞の可能性があったことを見ることができる。他のジュニアや群舞の部門も同様だった。審査員はダンスの「技術」だけで採点していない。採点には「創作」の要素が入ってくるので、順位がこのようにバラつく。このコンクールの出場者は、その結果の多様性のおもしろさを理解して、わざわざ冬の秋田まで、こんなに大勢来てくれるのだと思う。
ここのコンクールはずっと審査員の採点をすべて公開してきた。そのおかげで、このように採点を分析して、作品の可能性を探り、その意味するところを楽しむことが可能となる。
今年のグランプリ受賞者の渡部悠さんは、細かなテクニックにこだわらない、大らかなダンスの姿勢を身につけた人だった。今年の審査員は、誰も彼女にトップの点を入れなかったけれども、そのあたりに将来の大物の姿が見えているような気がする。テクニックにこだわっている者は、どうしても自分の持っている個性の発揮が後回しになりがちだ。しかし渡部さんは、すでに自分中心の世界に生きている。ここから新たなダンスが生まれてくることを期待する。
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