桜井多佳子
(舞踊評論家)
大阪府
肖像 15年前、初めて秋田に来た時、審査員控え室で「初めまして」とご挨拶した。方言のあるその言葉は優しく、お話は楽しく、審査の合間の休憩中、秋田駅前のコーヒー屋さんに連れて行っていただいたこともある。毎年秋田での再会がとても楽しみだった。柴内啓子先生!審査員室に先生のお姿が見えないのが不思議でした。心からご冥福をお祈りいたします。

 柴内先生も追求されていた「現代舞踊」。ともすれば古臭いと取られることもある日本の「現代舞踊」だが、その表現の繊細さ豊かさは、逆に海外では新鮮に受け止められ、驚嘆されることもある。ただ、テクニックに走りすぎると「現代舞踊」は、もはやそれではなくなり、かといって「コンテンポラリー・ダンス」でもなく、「サーカス」や「体操」ほどの技術でもなく、つまり「わけがわからない奇妙な動き」でしかなくなる。

 特にジュニア部門に多い「歯を食いしばってのY字バランス」、「意味のない柔軟性の披露」、「回数&スピード競争のような回転技」は見ていて悲しくなってくる。そのようななかジュニア1部で上位となったのは、テクニックを含めた動きが滑らかだった演技。作品の良さも反映している。選曲も良い『夏の息』を素直に踊った大塚果歩が第1位、淡い緑の衣裳とともに美しい動きを見せた長島夢乃(『白露の苔』)が第2位、豊かな音楽性を感じさせた菅原藍子(『麒麟の鱗』)が第3位となった。

 ジュニア2部で優勝した藤本舞は、強いメッセージ性を持つ『沈みゆく村』をダイナミックに、そして丁寧に踊った。第3位は、『よだかの星』をドラマを感じさせながら踊った佐藤末晏。第2位の有明歩は、昨年この部門の優勝者。今年はドラムのリズムでの『月の中の女』という作品に挑戦した。美しい容姿に恵まれた実力を持つダンサーであることは間違いない。が、私には、彼女が、作品を完全に自分のものとして踊っているようには見えなかった。ただ、その正直さには好感が持てる。いつか大きく羽ばたくその時を待ちたい。

 シニア部門のグランプリは『常闇の律』を踊った杉原萌。迷いのない動きは洗練されていて、ジャンプの美しさも印象深い。第2位、『滲む足跡』を踊った田中麻友美は、エロスをも感じさせるシニアらしい演技。第3位の小倉藍歌は『惜春』を情感豊かに踊った。矢澤亜紀が、傘を手に踊った『雨女』は、わかりやすい歌詞のイメージをダンスが超えることがないまま終わり、点数には結びつかなかったが、どこかトボけた感じもありインパクトの強いパフォーマンスではあった。納得の「あきたこまち賞」だ。

 群舞部門も見応えある作品が多く順位をつけるのが非常に難しかった。最優秀群舞賞は、二人の距離感が絶妙で、ドラマが浮き出るような『ここに、傍らに』を踊った大前裕太郎・椎野純。優秀賞の『象鯨図屏風』は、伊藤若冲の作品がテーマ。屏風図のポーズで始まり終わる作品の構成が巧みで、小川麻里子、大橋美帆という技術力・表現力を持つダンサーが、幻想のなかの生物を自由に描いていた。奇抜な幻想性は確かに若冲の作品に通じる。
 横山慶子奨励賞は、絵本を見るような楽しさがあった『こつこつアリとあ・ららら♪』と、子供達の清らかな美しさを感じた『ミューズの谷の泉から』。

 コンクールが全て終わった後のエキシビション公演で話題になったのは、昨年度最優秀群舞賞の富士奈津子作品『・・・そして、また、雨夜譚』。昨年の出場者である富士、水野多麻紀(昨年度グランプリ受賞者)らとともに、彼女たちの師であり母親でもある金井桃枝、水野聖子が登場した。ともすれば「身内ウケ」で完結しそうな企画だったが、二人の堂々とした演技が、作品世界に深みとニュアンスを与えていた。このコンクールがなかったら叶わなかったかもしれない舞台。秋田コンクールの意義をここでも感じた。

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Update:2017/02/21  

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