第31回の「あきた」は、じつは開催前日が大変だった。
12月7日の夕刻に地震が発生し、交通機関が大きく乱れた。東京から約4時間弱のところが8時間かかったケースも。深夜に到着したという人も多かった。
だが、棄権者は一人もいなかった。遠方からの参加者は、「あきたに出る」と決めること自体が大きな覚悟。ゆえに、決めたからにはトラブルがあっても出る。「あきたの強さ」をあらためて感じた。
[ジュニア1](小学生以下の部)
この部門の審査はとても楽しかった。レベルも高く、今年は作品のタイプも様々だった。その中で、私自身個人的に素敵だと思った作品が上位を占めた。第1位となったのは、『彼方からの物語』を踊った小野優月。確かなテクニックを柔らかく優しい動きで見せる。映画「ティファニーで朝食を」の主題歌「ムーン・リヴァー」を効果的に使い、心地良いドラマを感じさせた。やはりこの部門では指導者による選曲&振付か踊り手への点数に直接関わってくる。第2位は木元真理子。ドヴォルザークのスラヴ舞曲に振付けた作品「」悩める舞曲』も、やはり選曲&振付が良い。音楽の持つ民族性は、衣装のみに程よく反映させているが、動き自体は民族舞踊にとらわれてはいない。それがとても新鮮だった。木元はタイトル通り「悩んでいる」様子を表現しているのだが、それは思春期の少女の不安定な気持ちのようにも映り、それが短調のメロディを通して伝わってくる。木元は繊細な心の動きを、顔の表情を含め全身で訴えていた。
[ジュニア2](中高生の部)
第1位は『水は再び透きとおる』を踊った岸野奈央。どの動きも練られていて表現に迷いがなく、完成度が非常に高かった。第2位は宗像亮。「瀕死の白鳥」で知られるサン・サーンスの「白鳥」に乗せた『汀ニテ夢ヲ見タ』は、彼の心身ともの柔軟性やテクニックを十分にアピールした。が、コスチュームで損をした。動きの中でスタイルは悪く見え、振付のテーマと合っていたとは思えない。振付、ダンスとともにコスチュームも当然、作品の一部である。第3位、『剥がれゆくわたしの・・・blue』を踊った今井翠は、タイトルをそのままを表すようなコスチュームで独自のドラマを築いていた。3位入賞には惜しくも漏れたが『星月夜』を踊った大阪瑞貴、『そよ風の誘惑』の阿久津理央の素直でセンスの良い動きにも心惹かれた。
[シニア]
今回のシニア部門は、やはりレベルが高かった。だが同じパターンの作風が多かったように思う。雑な言い方を許してもらえば、暗く、追い詰められたなかでの叫びが聞こえるような作品。日本独自の「現代舞踊」には、そのような作品が多い。私はそれを決して否定はしていない。海外のコンクールなどで、そのような「現代舞踊」のオリジナリティが喝采を浴びる現場に何度も遭遇している。この「あきた」も、当然そのような作品は毎年多い。だが、以前はもう少しヴァラエティに富んでいたような気がする。この部門は、自作が多いと聞く。だとすれば、20歳~30歳というシニアの多くの舞踊家の表現したい今の「思い」が、「暗く、追い詰められたなかでの叫び」ということなのか。確かにそれは世相とも合致している。もちろん、「若者はもっと明るい作品を創るべき」という無責任な発想にはならない。結果として上位に入ったのは、「暗い」作風であっても、その表現に強さがある作品だった。そこに私は救いを感じる。
第1位グランプリに輝いたのは、『綴りゆく予感』を踊った船木こころ。昨年も第2位に入賞した実力者。一見、線が細いがどのラインも研ぎ澄まされていて、独自の存在感を持つ美しいダンサーだ。第2位は「夜の雪~零度の温もり」を踊った小室眞由子。第3位は『ブルー』を踊った水島晃太郎。振付にも動き自体にも独創性を感じた。
[群舞部門]
開設されて4年目。どんどん充実しているこの部門。とても見ごたえがあった。ただし、小学生からシニアまで一同に集っているので、審査は大変。子供だと侮るなかれ。小さな子供たちも含めた6人で踊った「」はらペコ猫とワイルドマウス』は、限られた時間内でストーリーを展開させつつダンスを披露、小物使いも見事で、楽しみつつ見入ってしまった。もう一度みたい!という気持ちは、コンクールのスタッフさんたちも同じだったようで、「あきたこまち賞」を受賞、同時に、長年審査員をつとめてこられた横山慶子先生が、特にジュニアの群舞に贈られる「横山慶子奨励賞」も受賞した。なお、同賞は、子供たち9人が踊った『薯童謡』にも授与された。
最優秀群舞賞を受賞したのは、『Bonappetit』を踊った富士奈津子と林芳美。タイトルは、「召し上がれ!」という意味のフランス語。テーブルと椅子、手にフォークを持つ二人が、様々に動く。富士は第27回、林は第28回のシニア部門のグランプリ受賞者、絶対的な実力の持ち主だ。だが、個々のダンサーの質が高いだけでは「群舞」とはいえない。今回面白かったのは、二人の感覚がときに、寄り添い、あるいは、まったく方向を違えながらも、舞台という空間の中で「絵画」のように成立していたこと。二人の異なる個性が不思議なバランスで互いを光らせていた。
優秀群舞賞は、『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』を踊った高橋茉那、山田聡子、三浦水輝、宗像亮。素早い回転や鋭いジャンプの向こうに見えるのは、身を切られるような絶望、そしてその悲劇を受け入れる強さ、さらに一歩を踏み出す力。恐らくは大震災が背景にあるのだろうが、ダンスは具体的なことは何も示さない。しかし、作品の迫力が、前述のドラマを訴えていた。
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