前回、第29回の「打ち上げ」時から、第30回目の舞踊際について意欲的なプランが色々出されていた。30回という記念にふさわしい、なにかしらのイベントを、と。だが、2011年3月のあの大惨事。出演者、関係者の誰もが、第30回の開催が幻と消えたような気がしたのではないだろうか。数ヵ月後、開催の決行の連絡を受けたときには、本当に嬉しかった。とにかく、今までやってきたことを、熱意を持って、感謝の心をこめて、丹念に続けること―残されたものの使命は、それしかない、という共通の思いゆえの決断だろう。
果たして、今回のコンクールは例年以上にレベルが高く、そして密度も濃かった。
ジュニア1部(小学生以下)
第一位となったのは、マーラーの有名な音楽による『しん・深と・・・』を踊った伊藤未唯。どの動きも揺るぎがない。テクニック的に安定しているというだけではなく、そこに何らかの思いや訴えを感じさせていた。しかもジュニアならではの良い意味での幼さや清潔感は漂っていた。第二位の鳴海春花は、スタイルも良く、ダンスも巧い。ただ、ノイズ音も入った音楽での『蜉蝣』のスタイリッシュな振付を消化しきるのは小学生には無理があるように思えた。第三位は『青い眼の人形』を踊った由元美凪。表現力が豊かで、動きの一つ一つが何かを語りかけてくるよう。いまの彼女を際立たせる振付だったように思える。
コンクールのレベルが年々上がっており、大人顔負けのテクニック、大人顔負けの表現が多く見られた。だが、レベル・アップを図ることと、「大人」を目指すことは違う。その年齢にしかできない表現を極めることで、その年齢ならではの輝きが生まれる。長いダンサー人生のなかでも貴重なことではないだろうか。
ジュニア2部(中高生)
第一位は佐々木奏絵。『時を刻む~私の180秒~』は、スピード感もあり、主張も見えた。第二位は『すいかの匂い』を踊った岸野奈央。懐かしいような夏の日を描いた詩のような作品を、明確に、丁寧に踊っていた。第三位は江上万絢。『見渡す限りの平原から』という作品は、振付が面白いのだが、ときどき、動きがこなれきってないような箇所が見られたのが惜しい。
シニア(19歳以上)
この部門に限らず、審査をする場合は自分なりの順位を決めながら採点する。審査が終了したときには、自分なりに1,2,3位は決まっている。だが、今回のこの部門は、それが出来なかった。最高点を複数の参加者に入れてしまった。優秀なダンサーが、それほどに多かったのだ。私一人が採点するわけではないので、当然ながら、それでも順位は決まる(審査員控え室で、結果表が配られたときは、私自身も、わくわく、どきどきしているのです)。結果を見て、ふむふむ、あるいは、えー?と思うことも正直言ってある。
今年のシニアは、予想の範囲内。ふーん、そうなったんだ、という感じ(無責任に聞こえるかもしれないが、集中して採点をした後、その結果は、すでに人任せなのだ)。だが、その後のエキビションを見た時に、この順位に大いに納得した。第一位、『蝉、刻々と』を踊った津田ゆず香が素晴らしかったからだ。コンクール時よりエキシビションのほうが演技は良く見えた。動きが伸びやかで、巧く力が抜ける箇所もあり、動きに変化がついた。身体能力が高く、ひたむきで緊張感があり、身体で深いドラマを語ることができる人。今後が楽しみなダンサーだ。
繰り返しになるが、今年は優秀なダンサーが多かった。上位の順位は僅差。第二位の船木こころ(『狐光』)は、動きに全く無駄がなく、非常に完成度が高い。第三位の伊藤由里は圧倒的な迫力で『砂葬』を踊った。『夢に棲む女』で個性を感じさせた小倉藍歌(第6位)の印象も強い。
群舞
最優秀群舞賞は『yearning to live』を踊った藤井淳子、加藤明志、伊藤有美、水島晃太郎。二組のカップルの関係性が面白く、振付も緻密。ミスが露呈してしまったのが惜しいが。
この部門は一昨年に新設された。審査基準は、他の部門同様になく、デュエットから大人数まで、また子供からシニアまでを同じ部門で採点するというのが難しいが。審査は楽しい。「群舞でしか出せないダンスの良さ」、「群舞でしか培えないダンス・テクニック」もあると思うので、もっと色んなダンサーにチャレンジしてもらいたい。
あきたこまち賞
ユニークな名前のこの賞は、主催者の秋田県芸術舞踊協会が「もう一度みたい」という、至極ストレートでわかりやすい基準で決定する賞。審査員は選考には関わらないが、毎回、同感&納得できる結果となる。今年は、群舞部門で5位となった『広島の空に向かって歌おう』を踊った15人に贈られた。エネルギッシュなダンスには訴えがあり、15人のパワーの行く先が同じ。前述の「群舞にしか出せないダンスの良さ」を味わうことができた。
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